月夜見 “春の足音?”
         〜大川の向こう

 
この冬は何かと記録的だったそうで、
積雪量が半端ないというのは連日のニュースでも叫んでいたが、
最低気温も、真冬日の日数も、
結構記録破りレベルだったんじゃあなかろうか。
それもこれも師走の頭から寒かったせいだが、
それって、元を辿れば
夏場の猛暑が北極の氷をたくさん解かしたからだとか。

 「それってアレだな。
  風が吹いたら桶屋が儲かるってのと
  一緒だよな。」

 「?? 風が吹いたらァ…、
  うっとぉ、何が受かるんだ?」

破天荒パパが珍しくも四角いことを言ったもんだから。
真剣本気で意味が判らんと、
無邪気な次男坊がひょこりと小首を傾げてしまい、
その様子のあどけなさに、

 “おおお〜〜〜vvv”

翻訳すると、
おおお、反抗期かと思ってたら
まだまだそういう顔もするんじゃんかと、
久し振りに愛らしい反応が返って来たことへ
感動しちゃったらしい赤髪のお父様。
とはいえ、表面的には
いつものように素直じゃない態度で返したものだから、

 「どーしたルフィ、
  そ〜んなドングリ眸になったらみそ汁へ落っこちるぞ?」

たちまち真っ赤になって ぷくりと膨れた小っちゃな次男坊。

 「ううう、うるさいやいっ!」

これがまた もちょっと口が達者なら、
シャンクスが柄にないことを言ったからじゃないか…となるところが、
そこまで語彙が足りないもんだから、

 「シャンクスのバカやろっ!」

お元気な雄叫びとそれから、
非力なそれながらも、ていっという飛び蹴りが加えられ。
あと2口ほどはあった、ワンパンマンの焼き印入りクロワッサン、
小さなお手々でぎゅむと押し込み、
頬張りながら朝ご飯の席を立ってしまった坊やを、
しまったぁとの後悔と共に見送るしかなかったり。

 「何だ、親父、あんなショボイ蹴りが効いたか。」

蹴った相手が相手だからのガッカリと判っていながら、

 「あんなチビすけのキックが効こうとはもうトシだな。」

なぁんて憎まれを、長男坊から浴びせられ、

 「ぬぁんだとぉっ!」

やっとのこと ハッと正気に戻るという、
結局のところは
いつも通りの朝でスタートした お宅だったようでございます。



     ◇◇◇


かように、この冬は
いつにも増しての寒さが厳しい冬であるようで。
とはいえ、
ちびっ子たちには まだ比較するほどの蓄積が少ないせいか、
それともそこも回復力満タンなお元気の為せる技、
過去との微妙な差異くらい何でもないないになっちゃうか。

 「冬は寒いに決まってんじゃんかよな。」

幾つか理屈を素っ飛ばしてることも何のその、
何を今更なこと言ってるかなとばかり、
まだまだヒーローシヨーとか大好きなくせに、
大人ぶってか肩をすくめてしまうところがまた可愛かったりvv

 「そうやって可愛い可愛いでおだててばっかいると、
  気がついたら手がつけられない我儘になってたりするんだぞ。」

おおう、誰ですか、
まだ自覚はあるレベルの親ばかさんの
心臓をえぐるようなことを、まだ幼いお声で突っ込むのは。
(注;レベルが相当に進んでいる
   親ばか・ちゃんりんちゃんには通じませんが。)

 「あ、ゾロだっ。」

今日はガッコはお休みの日曜日。
親戚のお兄さんはもう春休みなんだってとか、
ウチの親戚のお姉さんは受験とかいうのなんで
そこんチのおばちゃんがキイキイいってっぞとかる
やっぱり理屈までは判らぬながらも、
春が追いつきそうなほどに 冬もラストスパートだよねというの、
子供らの間でも聞こえてはいるようで。

 「手がついてる我儘がどーのってゆーのは何の話だ?」

おおう、お話を力技で戻してくださったわね、ルフィさん。(笑)
ボアの縁取りがあるフードつき、
ライトダウンのジャンパーを羽織って来たちみっこ王子を
丘の上の公園で待ち受けていた、
こちらさんはトレーナーへパーカータイプのジャケットを重ね、
一丁前にカーゴパンツ風のボトムを合わせた剣豪少年。
やや鋭角な面差しのせいで、ぶっきらぼうにも見えなかないが。
そして、そのせいか四角い話には縁が無さそに見えながら、
実は結構 難しい言葉もよく知っているし。

 「手がついてるじゃなくて、手がつけられん。
  手遅れになって直せないクセのことだ。」

例えばと指さしたのが、
丁度植え込みの縁によたたと姿を現した一匹の猫。
手入れのいい毛並みに、金のチャームが下がった首輪もしており、
どう見ても野良では無さそうな子。

 「あ、みぃみだ。」

ここ、中州の里の王子がルフィなら、
勝ち気なことから やや我儘な王女様扱いになっているのが、
ナミという小さいお姉さん格の女の子…が
妹か いやいや我が子扱いで溺愛しているこの猫様で。
ナミの前では良い子で通しているらしいのだが、
それ以外の場面では、悪戯はしまくるわ、
叱られれば愛らしい素振りで寄って来ての、だが
突然 豹変して引っ掻くなんてな性悪もやっちゃう、
里の中では暗黙のうち
“悪魔のような”とまで呼ばれておいでの極悪ネコ。
それを指しての
甘やかしが過ぎれば手がつけられなくなると
大人みたいなことを言ったゾロだ…というのは判ったものの、

 「?? どしたんだ?」

いつもだと、その愛らしい風貌と裏腹、
そりゃあ不貞々々しい態度で伸し歩いているはずが、
今日は何だか、微妙に足取りがおかしくて。
時々 よたたとバランスを崩し掛かるのへ、
何か病気かなと案ずるより先、はは〜んと誰もが気づく、
原因は恐らく、尻尾へ結ばれた大きなピンクパールのおリボンだ。

 「…いや、俺じゃねぇし。」
 「判ってるって。」

この猫様、身ごなしが素早いのも憎たらしいほどなので、
遊んでる間だけと、おやつなんぞをベンチに置いとこうものならば、
あっさり攫われてしまっているのが日常茶飯事…ではあるが、
このォと追っかけようにも、逃げ足が速い速い。
しかも、頭がいいものか、
それは さすがに叱られるだろう、
商売物の干し魚を悪戯されたとかいう話は聞こえて来なくて。
そういう周到さからも
皆様からの評判はよろしくないお転婆さんなのが。
いつだったか、
わたしは性悪猫ですというエプロンをつけられていた事件があり。
首輪へそんなおまけをつけたその上、
お尻尾にもリボンを幾つもくくれたなんて、
よほどの腕前じゃないと無理…ということで、
密かに快哉を呼びつつも、誰がやったのかは謎のまま。
でもでも、実は
夏休みの宿題をお釈迦にされた敵討ち、
こちらの坊ちゃんたちの仕業だったりするのだが。
(参照;『
夏の名残りの』)

 「あんな新品のリボンだからな、
  きっとナミ本人が結んだんだよ。」
 「あ・そっか。」

ご主人様のしたことなればで、
さすがに いやいやと振りほどけないんかな。
いや〜、きっとコツを心得てて
解けねぇ結び方をしてやがるんじゃないか?…などと、
目ざとく気づいた大人たちも
そんな囁きを交わしておいでだった一件だが、

 『お雛さんが近いからっていう“おめかし”なんだと。』

そんな真相が判るのは、
もちょっと日が経ってもなかなか解かれぬリボンを
まさかお仕置きかなと囁かれていることへ
ナミが気がついてのこと、気まずそうに首輪へと移動させたからだが。

 『だってアニメの○○では、
  フツーにお洒落っぽく結んでたんだのに。』

しかも、いつものこととて、
ご主人様へは良い子で通してた みぃみだったので、
嫌がっていようとは なかなか気づけなかったらしく。
それもまた一途な真心か、
でもでも、その反動で外では大暴れしている みぃみだったら
やはり問題ではあるような…。

 「ピンクって、春の色だよな。」

痒いの掻いてとでもいいたいか、
今日のは油断させたいのじゃあないらしい
擦り寄りようをする猫さんなのへ。
しょうがねぇなとルフィが手をかけたついで、
小さなヘアピンを毛並みへ通してあるの、
こちらはゾロが すいと引き抜いての外してやりながら、

 「まぁな。桜の色だからな。」

テレビ画面や大町の商店街にも、
そういう色合いがやたらとお目見えしている今日この頃。
持って帰れよと猫さんへリボンを咥えさせつつ、

 「ほら、あのグル眉のケーキ屋のケースん中にも、
  イチゴだけじゃなく土台まで、ピンクの奴が増えてっし。」

 「あ、いいなvv」

そっか、ゾロはガッコの行き帰りにショーインド見られるんだ。
ショーインド? あ、ショーウィンドウな…なんていう、
お子様らしくもそれはそれは可愛らしい会話を
あのお父様が交わせるような日は、
果たして花見までに来るのでしょうか。


 「でも 俺はどっちかって言うと、
  神戸の伯母ちゃんが送って来る
  いかなごの佃煮食ったら春だなぁって感じるんだが。」

 「あ、それ俺も大好きvv」


  お後がよろしいようで……。(笑)



  〜どさくさ・どっとはらい〜  13.02.24.


  *関西に春を呼ぶのは、
   あちこちで催される観梅の催しと、
   瀬戸内のいかなご漁のニュースです。
   あと、メバルも美味しいと
   今朝のニュースでやってましたvv
   こちらの子ゾロくんは魚を食べるのが上手そうです。
   ルフィちゃんの分まで
   甲斐々々しくも小骨を取ってやってそうですよね。
   原作の彼らの場合は…多少の小骨では身との区別も無さそうですね。
   怪我の治りが早いのもそのせいでしょう、恐らく。(こら)

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